カタリ〼。

このブログは移転しました。各記事に移転先への順路がありますので、読みたい記事から移動してください。

【 #ツイステ考察 】ジャミル・バイパーの愛としがらみ【アリアーブ・ナーリヤ/3章バレ】

新しいブログに移転しました!

2秒後に新ブログに移動します。

→移動開始しない場合はコチラ←








※※※この記事に含まれるネタバレ要素※※※

  • 本編5章まで

  • アリアーブ・ナーリヤ・3章まで

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

アリナリ3章。
ジャミルがどれだけ愛としがらみに塗れた人間かということが、染み渡ったエピソードでした……。
これまだイベスト終わってないって本気??
濃すぎるんですが……

家族への肩入れと諦め

ジャミルのマインドってだいぶ家族に肩入れしているよな……ていうのは、少し思ってたんですよ。



だって実際、ジャミルの溜めてたストレス、オバブロの根本原因って……
ジャミルの両親が、カリムやカリムの親に忖度しすぎたこと」じゃないですか。

<ジャミルの父>
……いいか、ジャミル
勝負はいつでも2回勝って3回負けなさい。
決してカリム様に勝ち越すんじゃない。

<ジャミルの母>
お前が賢い子だってことはよくわかってる。
お母さんたちの立場……理解してくれるわね?

——4-36 渇望アプローバル!

ジャミルの両親が「いい感じで負けろ」とジャミルに言いつけたのは、まだ、カリムが「今日こそ勝つ」とやる気を出している段階でした。 別にまだ、機嫌は損ねていなかった。
ならば、その「負けたほうがいい」という判断は、ジャミルの両親の意志です。
カリムや、カリムの親が問題にするかどうかは検証していません。何か言われたわけじゃない。機嫌を損ねることを恐れて、何か言われる前に予防したかったって話なんですから。

カリムも、ジャミルを苦しめてきた1つの要因」ではあります。1章でトレイが「問題を知りながら放置した責任」を問われたように
「カリムに打ち明けるわけにいかない」と思わせるほどジャミルを"信じて"いたカリム」にも、そりゃ大いに責任はあります。
カリムが態度を改めることで状況が改善するなら、そうした方がいいに決まってる。

だけど、根本のキッカケ(原因)ではなくて……。

あの回想で見る限りは、「そうさせた」のも、「それを望んでいた」のも、両親だったんですよね。

物心ついて最初の記憶は カリムや、カリムの両親に ペコペコと頭を下げる両親の姿。
俺は、その姿を見るのが 大嫌いだった。
-----4-36 渇望アプローバル!

そしてジャミルも、「カリムたちにへりくだる親」の態度を「大嫌いだった」としている。

なのに。何故か。
彼の怒りの矛先は、”カリム”なんですよ。

両親の思想の方ではなく「カリムさえいなければ」と、呪詛をとなえて。
気付け、鈍感野郎”と、笑顔に苛立って。

何故彼は、「大嫌い」な筈の「家族の態度」へ呪詛を向けないのか。仕方ないと思っている? それは「諦め」なんだろうか? 
それならば、カリムにわかってもらうことは諦めきれなかった? わからない……でも彼って「家族がどうでもよくないから」今まで頑張って来たんだろうな……とモヤモヤ考えていたんですけれども。

腑に、落ちたかもしれません。

熱砂の国の熱とスピード

『砂漠の魔術師』を尊敬する
魔法士や技術者を中心に……
熱砂の国では積極的に最先端技術の研究や運用が
なされてきました。
-----アリアーブ・ナーリヤ/3-1 熱砂の国の伝統行事

熱砂の国って、「伝統」と同時に「最新」を追う空気感が有るっぽいんですよね。
考えてみればそうだろうと納得はします。だって、大きな「商家」がある国……「商売」が盛んな土地だという情報はあったわけだから。
ジーム家だって、長く続く商家だからこそ、「新しいニーズ」「新しい価値」に敏感でいなければならないし、時代に合わせていくマインドがないとダメでしょう。

……父さんは、あまりパソコンとかスマホに詳しくないからな。
-----アリアーブ・ナーリヤ/3-4 腹ペコモンスター

でも、ジャミルの父親は、そうじゃないんですよ。


ジャミルの両親は、「先進的な物事を歓迎する熱砂の国」にしたら、本当に「前時代的な価値観で生きている人」に分類されるんです。
熱砂の国自体が「ジャミルの両親のような価値観文化」を持っているのではなくて、ジャミルの両親が”そうなんだ。

つまり。

「そんな風」でも、熱砂の国で生きていける、むしろ普通よりちょっと良い目に遭えるのが 「ジーム家に仕えるバイパー家」の立ち位置なんだってこと。

普通よりちょっと良い目

この「普通よりちょっと良い目」ていうのが、曲者です。

別に「普通より良いものが手に入る」という訳ではなくて。
普通より格段に良いものを簡単に借りられる」。

言っていましたよね、ジャミルが。カリムの家の釜を借りてるって。

だから自分たちで持とうとする必要がないんです。


家ごとアジーム家に支えているから、パンを焦がして泣きそうになるような年齢のナジュマでさえも、アジーム家の釜が借りられる。
""だから""ジャミルの家にあるのは””普通のオーブン””でいい。

普通よりお金をかけて、ちょっと良いものを入手するより、アジーム家の物を借りた方が簡単で、そして質も格段に良い。
そりゃ自分で買う訳ないです。

カリムの両親は、使用人たちが「生活のプラスα」に屋敷のものを利用するのを許しているし、きっとそれが「職場環境」だと思っています。使用人がどのように過ごしているかを気にかけていて、「使用人たちが「美味しい」と噂するまかない」だって気にする。

おそらくだけど、もしも「使用人たちの噂」として「不満」が上がってきたとしたら、カリムの両親は職場環境の改善に動くんでしょうね。そして使用人たちは、より良い「環境」を借りられるようになり、それを有り難がって、ここに勤めていてよかったな、となるんです。


だからバイパー家は、「アジーム家に真面目に仕える」という事項さえ満たしていれば、研究心をもって最先端の技術に食らいつかなくても、商魂をもって積極的に「良いもの」に手を伸ばさなくても、「不自由を感じることなく」生活できる。

💀「…………」
🐙「…………」


ジャミルは、「自国の最先端技術」を誇らしげに語る一方で、「メールの使い方もよくわかっていない父」を「父さんは詳しくないからな」と許容しています。

それは、バイパー家が「商売人」である必要も、「研究者」である必要もないからです。
最新を追うマインドが「アジーム家に雇われるバイパー家」に必要な技能であるなら、ジャミルは"職業人として"父に憤慨するであろうけども。

そうではないから、別にいいのです。

ジーム家の使用人

ジャミルの父は「アジーム家の使用人」ですから、「商売人」である必要も、「研究者」である必要もありません。
そしてさらに言えば、「従者」である必要もないのでしょう。


ジャミルの父親は、「カリムの父(当主)に直接仕える従者」じゃないんです。
いや、もし"そう"だったらぶったまげるし、相当特殊な事情がありそうで怖いから”そうであってほしくない”……。

だって、「商家の当主に直接仕える従者」が、SNSが普及する世の中で「メール」を信用できないほど前時代的でいられる訳がないじゃない。

従者(Valet):外出先に随行し、服装や素行に問題がないかをチェックする。
http://tinyangel.jog.client.jp/Class/Servant.html


外出にも随伴する従者は、主人の意を汲み、助ける立場です。その場にどんな「服装」や「振る舞い」が相応しいのか主人の為に知っていなくてはならない。
どうすればいいか疑問が生じた時、主人は一番に従者に尋ねるのですから……。

「従者」は無知でいることを許されない

ジャミルが父の無知を強く非難しないのは、「父が従者じゃないから」です。
父からジャミルへの連絡が”不慣れ”で"心配"なのは、父が普段、「次期当主の従者」に連絡する立場ではないからなんです。
普段、ジャミルの父は上級使用人から「その場で」「口頭で」、指示を受ける立場なのでしょう。だから自分から連絡する際も、そうするものと思っている。

本当に、一介の使用人であって、「従者一族」じゃないんだ……。

<ジャミルの父>
カリム様、いつもうちのバカ息子と 遊んでくださりありがとうございます。

<ジャミルの母>
使用人にも分け隔てなく接してくださる優しさ…… ご主人様のご教育の賜物ですわ。
-----4-36 渇望アプローバル!

カリムもジャミルも幼馴染であることを当然のように口にする。だから、当主夫婦とバイパー夫婦が結託して、彼らを引き合わせたような気がしていました。

カリムとジャミルが意識するより前に、親が決めたことなんじゃないかと。

それほど親同士が親しいのなら、『渇望アプローバル!』の「カリムに対するお礼」も、「自分たちが一緒に育てたのに、やたら謙遜するなぁ」とでも解釈できました。

けれど、そうではなかった……。

ジャミルの両親は、本当に、"遊んでくださること"と”分け隔てない振る舞い”を、有り難がる立場だったんです。


 バイパー夫婦は「連絡手段を駆使しなくても務まる、上級使用人から指示を受ける立場の使用人」で。
別当主夫婦に近しい立場でもなくて

そうだとしたら彼らは……、
まさか我が子が次期当主の従者になるとは予想していなかったのではないでしょうか……?


本当に、偶々、同じ歳だったから。

当主夫婦が、「お屋敷にいる同じ年頃の子供」とカリムとを会わせたときに、ジャミルがそこに含まれた、というだけで。

カリムは家の召使いが「100人くらい」と言っていました。
妹と弟の数も曖昧なカリムのことだから、実際、使用人はもっともっといるでしょう。
約40人の令嬢、令息に対する専属だけじゃなくて、お屋敷全体の整備だって人手がいる。政治的な機能までもった建物なんだから、来賓対応にも人数がいる。
100人で足りるわけない。 その何倍もいる。
ということは、使用人の子供もたくさんいる


そんな環境で、ジャミルはカリムの幼馴染に”選ばれた”のです。親同士の近しさは関係ない。


選んだのは、カリムです。
時の運命と、カリム自身。



もしも、カリムが


確かに”そう”考えてみると、「カリムさえいなければ」、ジャミルは自由だったのでしょう。

使用人であるという事実には変化がないけれど。当主一族の前では、ジャミルの両親が言うような「使用人並みの忖度」はどうしてもするだろうけども。

一旦そこから離れてしまえば関係はなくなる。
もしも雇用関係を円満に終わらせられたなら、「使用人としてのふるまい」からさえも、解放されます。

「一介の使用人一族」であれば、たぶん、それができました。



けれどジャミルは、カリムに選ばれたから従者になったし、
それと同時にジャミルの家族は「次期当主の従者の家族」になってしまった……。

カリムの従者ジャミルは、カリムが失敗しないように気を遣い、世話をする。カリムの味方で、「カリムを支持する立場」としてみられます。そういう、仕事ですから。

ならばジャミルの家族も当然、「カリムを支持する立場=カリム派」に属することになる。
カリムが生きているうちは、「カリム派」は一見平和でしょう。もしかしたら、ジャミルがカリムの従者になって以降、ほんのりと旨味が増したりしたかもしれません。

けれどカリムが死ねば、その後に宙ぶらりんに取り残された「カリム派」は、きっと「不穏分子」として消される。 物騒な話だけれど、次期当主を暗殺しようというような勢力が、その従者および縁者を無事に生かすとは思えない。

「一介の使用人一族」であれば、そんな危険な争いに巻き込まれず、ひっそりと「アジーム家の恩恵」だけを受けていられたのに。


そんな想像を、してしまうんです。

『アジーム家にペコペコせず、「カリムへの気安さ」を咎めなかった両親』を想像するんじゃなくて。
もしも、カリムがいなかったら』という想像をするんです。
それほどに、ジャミルとバイパー家は、「アジーム家に頭を下げて、恩恵を受ける」以外の生活を想像できなくなってしまっている。


ナジュマは当たり前にアジームの釜を借りてパンを焼くし。
父は知識を更新せずとも淘汰されることはない。


熱砂の国の経済が持つ、熱とスピード。
中心部にあるのは、物騒な跡目争いが日常のアジーム邸。
その只中にあって、「使用人一族のバイパー家」はまるで、砂嵐の届かない、砂漠のオアシスです。静かで晴れ渡り、ヤシの葉がゆったりと揺れ、冷たくて綺麗な泉がキラキラ光る。ここにいたい、と思ってしまう、穏やかな世界なのでしょう。

例え「アジーム家に仕える」以外の生き方を知らなくて、 アジーム家の一族に一生頭を下げなければいけないとしても。


たぶん、ジャミルは。 それを壊したいとは、とても思えないのです。

「だった。」


俺は、その姿を見るのが 大嫌いだった。
-----4-36 渇望アプローバル!

「大嫌いだった」けれど。
屋敷の外の世界の熱とスピードを知るほど、アジーム家上層の物騒さに慣れれば慣れるほど。
「今まで」を尊び、ペコペコと頭を下げオアシスに留まろうとする彼ら(両親)の選択が、持たざる者としての致し方ないものに思えてきて。

憐んで、しまうのでしょう。

まるで、自分のパンを子供に分けてしまう、アラジンのように。

<トレイ>
面倒見がよく気が利くな、ジャミルは。

<ケイト>
ちょーっと、過保護すぎる気もするけどね。
-----アリアーブ・ナーリヤ/3-7 タワーバゲット


『過保護』と言う言葉を、「一生食べるのに困らない」という伝承と共に出されてしまいました……。
確かにそうです。アジーム家の恩恵の下での生活は、食べるのに困らなくて、過保護でしょう。そこ以外に、いられなくなってしまうくらいに。

その状態を壊せない。たぶん、「守りたい」なんて言語化された、強い決意ではなくて。ただ、面倒を見て、維持してしまう。
弱者が、弱者たることを、嫌っても憎みきれない。
だから、「家族には何も知られず、何事もないまま」、自分の澱を消し去る方法を懸命に考えた。考えすぎてしまいました。

ジャミルって呆れるくらい外面がいいし いつも上手く立ち回ってるように見えるけど……
変なところで真面目だし、 意外に頑固なところがあるからさ。 無理してるんじゃないかなあって気になってたの。
あんまり考えすぎないでね、お兄ちゃん。
-----アリアーブ・ナーリヤ/3-11 うまくやっているさ

きっとナジュマ(妹)はジャミルにとって、保護対象です。実際、そこまで弱者ではないのでしょうけど。
ジャミルは保護しようとしている。だから、言えない。
無理して、考えすぎた結果、失敗して。破滅を悟り、「俺も、家族も、……なにもかも、どうにでもなれ!!」と叫んだことなんて。

全部全部、おまえの案ずる通りになってしまったよ、なんて。

………………。
もちろん、うまくやっているさ。 心配するな。
俺は、お前の兄だぞ?
-----アリアーブ・ナーリヤ/3-11 うまくやっているさ

言えないから、”魔法の呪文”をつかう。こう言えば、妹(ナジュマ)がそれ以上追及しなくなるとわかっていて、言う。

サルタンの心を操り、信じ込ませたジャファーと、同じことをする。大嘘を吐いたんです。

ご心配なく
全ては上手くまいります
-----映画『アラジン』日本語吹替

ジャミルだけでなく自分たち家族までもが『終わり』かもしれなかったこと」をナジュマは知りません。
だからこそ、「自分は平気だけど、ジャミルが心配だ」なんて言える。
そして、なぜ彼女が「知らない」のかといえば、ジャミルがそう望んだから……。

—悔しいが、アズールの慈悲のおかげで 俺の親も、アジーム家も、
俺がオーバーブロットした本当の理由は 知らないままだ。
——5-10 厚顔デイズ!

知らないままなのに、ナジュマの分析するジャミル像は、とても正確です。
全くそのとおりなんですよ。そのとおりだからこそ、ナジュマは、ジャミルから「本当のこと」を打ち明けられることは、ないのだと思います。

だって彼の苦しみは、「家族の今まで」を保護しようとしたことが原因だったから。 知られぬまま、そのままの、「今まで」を維持しながら、どうにかしようと。

そうまでして維持したかったものを覆すようなことを、彼はしません。 ナジュマの語るとおり、真面目で頑固な兄だから。

外から見たら過保護にさえ見えるそれを、彼はやめようとはしない。


知らなくていい。そのままでいい。
ジャミルが望むとおり、ジャミルの両親は何も知らず、そのままです。彼らは、ジャミルが幼い頃から何も変わっていない

「2回勝って3回負けなさい」というのも、「メールじゃ心配だから直接伝えろ」というのも。
「自分が今までそうしてきたから、それで不都合がなかったから、これから(子供たち)もそうであって欲しい」、その思想の表れです。

結局、一緒なんですよね。ジャミルも。ジャミルの父も。
変わらないことを、何事もないことを、そのままであることを、望んでいる。

ジャミル
……ホリデーの計画は俺にとって一世一代の勝負だったし、失敗して人生全部ダメになったと思った。
でも、結局そんなに変わっていない。……”ありがたい”ことにな。
——5-10 厚顔デイズ!

この「”ありがたい”」という言葉。ジャミルの親が普段言っていたこと、なんでしょう。 アジーム家は立派で、ここで働きたい人は沢山いて。そこに生まれもって雇われていることは運が良くて、"ありがたい"ことなんだって。

<ジャミルの父>
カリム様、いつもうちのバカ息子と 遊んでくださりありがとうございます。
-----4-36 渇望アプローバル!

大嫌いだった。カリムやカリムの親にペコペコして、ありがたがる親が。
「今まで」を失わないために、自分に「2回勝って3回負けなさい」と言いつけてきた親が……。けれど、ジャミルは憎みきれない。

だって自分も、「そのままで、そんなに変わらない」ということに、心底安堵してしまう。そういう性分なのがわかっている。
今までを壊してまで「変えたい」と思えなくて……だから、苦しんで。
親の言葉、”ありがたい”という言葉を使うことで、そのどうしようもない類似点を皮肉ったのでしょう。

そして望んで隠した自覚があるからこそ、隠し続けようとするんです。


彼は、「家族にわかってもらうことを諦めている」んじゃない。
知ってほしいと思っていないわかってほしいと望んでいない。知られたら、わかられたら、「今まで通り、そのまま」じゃなくなってしまうから。

一度は「知られてしまう、もう終わりだ」と絶望したけれど。

それでもどうにか、「そんなに変わっていない」状態を手にしたから。

彼はそれを、手放さないのです。


兄を案ずるナジュマの思いやりから、自分の”失態”を隠し続ける。
たぶんこれから、一生。
だって、そうしたいから。

誰が俺をわかってくれる?

そう考えると「気づけ、鈍感野郎」って、すごい言葉ですよね。
そのままがよくて、変わらないのを望む性分のジャミルが、唯一望んだ変化だったんですから。

誰だって苦しいままなんて嫌だし、苦しさが消えて欲しいっていうのは、当たり前のことだけれど。自分が苦しむ間、呑気に笑う顔が憎らしくなるのも、仕方ないけれど。

でも……
追い詰められてやっと出てくる思いなら、言葉なら、それはやっぱり貴重ですよ。

最終的にホリデーに実行した、
カリムにすら何も気づかせずに苦しみだけ解消しようとする計画
を考え出すより前。

「気付け、鈍感野郎」とジャミルは苛立った。

カリムが真実に気づく想像をしたんです。もしかしたら、ほんの少し顔に出したのかもしれない。
せずにおれますか。

勉強を教えた側が教わった側より点数が低いなんて、絶対に妙なのに、どうしてか気がつかない。そういうレベルで、本当に鈍感だったから。


そして、ユニーク魔法や洗脳現場を暴露された時には……。

寮生たちに「違う、俺は」と、ジャミルは弁解しようとした。追い詰められたとわかっていながら、どうにか誤魔化そうとした。


けどカリムがジャミルに語りかけた時には、「本当のこと」をぶちまけ、何もかもを突きつけることを選びました。
証拠をつきつけられ、言い逃れできないと感じたのでしょうけど……。


でも、ヤケを起こしたのは、真実をぶつけたくなったのは、カリムに対してでした。 「気づけ、鈍感野郎」という鬱憤は、カリムに対するものだったから。


相手に悟られずに、知られぬまま。「今」を失わない最小限のリスクで、自分の思い通りに事を運びたい。

これがきっとジャミルがこれまで培ってきた性分で、ユニーク魔法の根源となった、彼の魂に馴染む魔力……「イマジネーションの力」なんでしょう。


そんな彼に、「気付け」と苛立たせ、「これが真実だ」と叫ばせることができるのは、
もしかすると、カリムだけなのかもしれません。


そうだとしたら……

---大人はみな同じセリフを言う。 「君ならわかってくれるだろう」って?
なら、誰が俺をわかってくれる?
-----4-36 渇望アプローバル!

この疑問の答えは、……そういうことなんでしょうね。

だって、相手に「わからせよう」としないのなら、「わかれ」と要求しないのなら。
それは彼が、「わかってくれる人」として選んでいないということですから……。


ものすごく不本意だと思います。

きっと、あまりにも「気付く気配」がないから、苛立ちを覚えたのでしょうし。
「わかってもらえない」と思うから、「誰にも悟らせない計画」を立てたんですし。


事実、監督生とオクタヴィネルがいなかったら、カリムは「ジャミルが裏切るわけない」と思い続けていたでしょう。
例え目を覚ました瞬間に、雪の中や夜の砂漠に放り出されていたとしても。
ジャミルがそこに来て、「もうNRCにいないほうがいい、実家に帰れ」と言えば、それに頷いた。きっと。


でも実際は監督生とオクタヴィネルがいて、計画は失敗して、カリムに真実が伝わって、

ジャミルは、「お断りだ」と言えるようになった



そうして、彼の「今まで通り、そのままがいい。」という恒久的な望みと
一番になりたい」という慢性的な情動が、同時に叶ったのですね。
一見矛盾し、共存し得ないと思われるような、2つが、同時に。

……ホリデーの計画は俺にとって一世一代の勝負だったし、失敗して人生全部ダメになったと思った。
でも、結局そんなに変わっていない。……”ありがたい”ことにな。

カリムに解雇されない限りは 俺は従者の席に居座り続ける。
せいぜい俺の有能な働きぶりを 周りの奴らに見せつけ続けてやるさ。
カリムにも、寮生にも、両親にも、アジーム家にも……お前らにもな。
-----5-10 厚顔デイズ!

カリムは寮生たちに「ジャミルの今までの実績」を示し、「副寮長はジャミルのままにする」と説得しました。
つまりそれは、「副寮長として、自分の補佐として見たとき、ジャミルが一番の実力者だ」ということです。



そもそも、よくよく考えてみると……、
一番になりたい」というのは、『貴方が一番ですよ』と評価する誰かがいないと成り立たない願望で。
決して「誰よりも上の立場になりたい」って話じゃないんですよね。
ジャミルは自分の高い能力を抑圧することなく、勝ちを譲らずに一番になりたい……とすると、他者がまっとうに実力を評価することを前提としている訳ですから。

誰よりも上の立場というのはむしろ、まっとうに実力を褒められることは難しくなります。

カリムがそうですよね、いつだって忖度されて、何が本当かなんてわからない。一番かどうかも不明になる。
むしろ「評価する側」「褒める側」にならなきゃいけないのが、上の立場です。
だから「寮長になる」っていうのは、(ジャミルの欲望を叶える意味では)然程ベストアンサーとは言えない訳です、実は。
おそらく、ジャミル自身もよくわかっていなくて、だからこそ、そういう計画を立ててたんですけど。


たぶん…… 自分の不満に対して「抑えつける」という対処しかしてこなかったから、
「望むこと」に不慣れだから、
「何を望めば自分が満たされるのか」を予想するのも、不慣れで、下手糞なんでしょう。
いや、まあコレについては、他のオバブロさんたちにも言えることなんだと思いますが……。


勝ちを譲るのはストレスで。けど対等なライバルにも、友達にもなりたくない。誰かに、わかってほしい。
家族には知られたくない。利害関係は失いたくない。今までどおり、そのままでないと。でも、一番になりたい。


そういうジャミルの、ただグチャグチャに抑えつけていただけの不満たちに向かって、カリムは。
まるで簡単そうに放ったのかもしれません。


ジャミルは、「従者として」「副寮長として」、そのまま一番になれるじゃないか』と。


アラジンとジャスミンの思いを知って法律を変えたサルタンのように、魔法よりも万能な”主人としての立場”を振るって。
本当の、まっとうな再評価を提案し、ジャミルの願いを叶えたのでしょう。

ジャミル
スカラビアは、深謀遠慮がモットー。
どいつもこいつも結論を急ぐのは避けて、 誰につくのが得か、注意深く動向を窺ってるんだろうさ。

俺や、カリムも含めてな。
-----5-10 厚顔デイズ!

ジャミルは、「注意深く動向を伺う、深謀遠慮なスカラビア」という集合に、カリムも含めました。 少し前には「考えなしで大雑把」と悪態をついていたのに(4-37)、分類を改めているんです。

きっとそれは、「自分を従者として再評価し、見定めようとするカリムの姿勢」を、本気のものとして受け取ったから。信じたから。

カリムにクビにされないかぎり従者でいる、という宣言は、「カリムにクビにされる可能性がある」という認識の表れでもあります。
以前のカリムであればジャミルを妄信して、自分から解雇することなど想像できなかった。

けどするかもしれないんです、だって、本気でまっとうに評価をしたなら、「ジャミルより従者にふさわしい人物」が現れれば、その人物を雇用することになるじゃないですか?

「今のままの立場」として見定め、再評価することで、「今のままの立場として一番」であることを獲得させる

何度反芻しても、唯一これしかない、というベストアンサーです……。


ジャミルはたぶん、「自分が偉くないから不自由なんだと」感じていて。それで、偉くなろうとしていたから。
カリムがもたらした現在こそ、従者としての首位の道こそが自分の望みに叶うなんて、認め難いでしょう。自分よりカリムの方が、自分の満たし方を”わかってくれた”……なんて。

いやぁ〜……。本当に、不本意、なんでしょうね……。


だからこそ、「注意深く動向を伺う、深謀遠慮のスカラビア」らしく、「しばらくは大人しくカリムにしたがっておく」と保留の姿勢を示します(5-10)。

それがベストアンサーかわからないけれど、今はそれしかなさそうだ…と。

彼を縛るもの

すっかり全部、これが正解だなんて信じてはいません。

けどジャミルは、
心底、「結局そんなに変わっていない」今に安堵して
実力を知らしめようと前向きになった
そういう自分を、意識しました。飲み込みました。”ありがたい”と、皮肉るほどには。


ぐちゃぐちゃに抑えつけた不満を紐解いて、やっとのことで形作った「望み」を、決して彼は手放さないでしょう。

いいんだ、これで……ひとまず、今は。

あんまり考えすぎないでね、お兄ちゃん。

-----アリアーブ・ナーリヤ/3-11 うまくやっているさ

だから心配するな、何も知らなくて良い。
そのままでいい。

カリムは死なずに、きちんと次期当主でいるし。
自分はずっと”一番従者に相応しい人間”と認められ続ける。


父はスマホやパソコンを学ばなくても困らず、
ナジュマはアジーム家の釜でパンを焼き続けられるだろう。

だからこれでいい。
主人を裏切った事実などない、完璧で、「一番」の従者だと、思っていればいい。

変なところが真面目で、頑固で、ちょっと過保護なジャミルは……妹に一生嘘をついてまで、”そう”、在り続けるんだと思います。理解しようと案じてくれた家族には、とても残酷な答えかもしれないけれど。


彼は自分で望んで、自分の在り方を「結局それまでと、そんなに変わらない形」に、縛り付けます。
だってもう、苦しくはないから。

<ナジュマ>
でもさ、そうやって文句言いながらも
いつも面倒みてくれるから……
私もついつい頼っちゃうんだよね。
ありがと。

ジャミル
ふんっ。調子のいいやつ。
-----アリアーブ・ナーリヤ/3-11 うまくやっているさ

面倒で文句を言っても、「ふん」と笑えるくらいには、 「今のまま」を、しがらみごと愛しているから……

……なんて言い方をしたら、やっぱり文句の1つや2つ、言われちゃうんでしょうけどね。


comicanalyze.hatenablog.com

note.com